旅をする沼

マンガやなんやかやについて、読むのは自己責任で。

外天楼/石黒正数

外天楼/石黒正数(全1巻)

外天楼 (KCデラックス 文芸第三出版)

外天楼 (KCデラックス 文芸第三出版)

 

 今、いくつかの作品について並行して書いているのだけれど、冊数多いとやはりまとめるの時間かかる。あと癖(のようなもの)で漫画について話すときどうしても他作品をたくさん引き合いに出してしまうので引用が面倒くさい…。というわけで、しょっぱなは1巻完結の作品で、なおかつ自分の中にあまり蓄積のないSFの話にしようと思い「外天楼」をチョイス。

しかし「外天楼」を改めて読んだところ、これは何どう考えても私がぐだぐだいう前に一度読んでくださいとしか言いようのない作品だと思った。こんなことを言っては元も子もないのだけれど、この作品はとにかくありとあらゆる先入観を排して読むに限る。なので今回は作品の外堀的な部分を多めに語りたい。

 

一応差支えない程度にアマゾンさんからあらすじを抜粋。

外天楼と呼ばれる建物にまつわるヘンな人々。エロ本を探す少年がいて、宇宙刑事がいて、ロボットがいて、殺人事件が起こって……? 奇妙にねじれて、愉快に切ない――石黒正数が描く不思議系ミステリ!!

これ、短編でも読めるものを連作という形をとって単行本化したものなのだけど、調べてみたら初出がメフィストなんですね…。なるほどという感じ。

この作品をSFという扱いにしたのは別にロボットが出てくるからというわけではない。ここらへんに関しては「外天楼」に限った話ではなくなりそうなので、ひとまず話を作者まで広げてしまうけれど、石黒正数の作風の要素とは、ちょうどいい日常・ちょうどいい笑い・ちょうどいい謎だと思う。それらのバランス感覚が非常に優れている。それが一番わかりやすいのが代表作の「それでも町は廻っている」。

 

 こちらはメイド喫茶(おそらくみなさんが想像するメイド喫茶ではないです)アルバイターで女子高生の嵐山歩鳥を主人公にした日常コメディー。日常を描きつつもオカルト的なエピソード回もあり、なんとなくすっきりせずに終わることもままある。いわゆる石黒正数のSFとはサイエンス・フィクションではなくて「すこし・ふしぎ」ですね。藤子・F・不二雄の影響を大きく受けているというは作者本人も公言している。恥ずかしながら私は藤子不二雄サラブレッドではないため、そのあたりのことはあまり詳しくないので深く言及することは避けますが…。いずれにしても、石黒作品をミステリと言い切ることに関しては個人的に若干の違和感があるけれども良い謎が効いているという意味ではミステリ的な快感がある。また、笑いの要素と絵柄のポップさも作品を不思議で軽妙なものにすることに一役買っているのではと思う。漫画におけるギャグと絵柄の関係については私の中でも多少思うところがありますが、それはまた「よつばと!」あたりについて話すときにでも。まあ簡単に言えば、ギャグ漫画においてギャグで笑いを取るためには一般漫画以上の画力と画面上の書き込み(それもなるべく日常的な部分)が必要なのだというのが持論。絵が下手なギャグ漫画家はダメですね。

話がそれたので、石黒正数の話に戻ります。「外天楼」において、よく評価されているのは1冊の単行本としての構成力だけれども、石黒正数の手法はいわゆる伏線の回収というよりも、バラバラだったものを1点に収斂させる作業。正直言って、ミステリという観点でいえばそれまで与えられた要素で読者が結論に至ることはほぼ無理。そういう風には描かれていないと思う。強いていうなら石黒作品叙述トリックぽいのかな〜?読者に対するミスリードが多い気がする。導入から結論までがアクロバティックというか。

構成の話でいえば、これは有名な話だけど、「それ町」は基本的に1話完結の連載ですが時系列順に描かれていない。それはサザエさん方式を採用してるというわけではなくて、主人公の弟が先月号では小4だったのが今月号では小3になったりする。石黒正数はそういう中で整合性を持った話作りをする能力に長けた人なのだなあと思う。私はそういう連載作品における非連続性みたいなものが結構好きなので、石黒作品がハマるのかも。(連作の非連続性についてはぜひとも「学校怪談」の山岸に関して詳しく述べたい!!)「外天楼」もこうした続いているかと思いきや続いていないようで続いている、みたいな部分があるので私はそこが結構好き。

あと「外天楼」は星新一好きな人は好きかもしれないですね。何はともあれ1巻完結だし私が持っているのは文庫版で読みやすいので、興味のある人にはぜひお貸ししたい!!


ちなみに「外天楼」を読む際の心構えとして、なんとなくマッチするかなと思って載せたい文言があります。

1 まず、推薦文で先入観を持たないように目をそらしながら帯を外す

2 次に話の流れを認識しないために目次をとばす

以上は推理小説の愛読家でもある「それ町」の歩鳥の読書作法。


なんか最近レジュメとかレポートとか全然書いてなくて書く能力がだだ下がりな気がする。だらだら長いしすぐ脱線するしで全くダメですね。書かねば。